「FAS やめとけ」
この言葉を検索する夜は、たぶん、一緒に働いてきた同期がまたひとりFASから出ていったのではないでしょうか。
僕はひのといいます。
社労士をしながら、本業では会社の管理部門で給与計算と人件費の管理を担当しています。
僕は公認会計士ではありません。FASで働いたこともありませんし、M&Aのディールを回した経験もありません。

ただ、FASの人から届く資料依頼リストに、期限までに答える仕事なら何度もやりました。いわゆる労務デューデリジェンスというやつです。
会社が買われる側になると、買い手が立てたFASのチームから、Excelで依頼リストが届きます。金曜の夜に50項目ほどのリストが来て、月曜の朝が期限だったことがあります。

まじかよ…
って思いましたね。そして中身は本当に細かいです。
【例えば…】
・直近3年分の36協定
・部署別、月別の時間外労働時間を、45時間を超えた人数がわかる形で
・就業規則と給与規程の改定履歴
・社会保険の資格取得届と、加入漏れの有無
・パートの雇用契約書を全員分
僕が一晩かけて作った表に、翌日の午前には追加の質問が返ってきます。

あの速さと細かさを、受け取る側で何度も浴びました。だから「FASが激務」という言葉の中身には、結構納得しています。
そして、僕が検証した結果、FASが「やめとけ」と言われる理由は、口コミサイトを開かなくても、BIG4の募集要項を並べるだけでかなりの部分が見えます。
【この記事でわかること】
・FASが「やめとけ」と言われる6つの理由
・BIG4系FAS4社の募集要項に書かれた「固定残業」
・監査法人とFASの初年度給与を、比較した
・実在するFAS求人216件の年収レンジの検証結果
・FASに向いている人と、入ってから苦しくなりやすい人の違い
・監査法人での経験のうち、FASで使えるものと使えないもの
・FASを出た人がどこへ行くのか
・FASの面接で聞いておくべき質問

この記事はFASを勧める記事ではありません。またやめておけと言う記事でもありません。その判断材料になればいいと思っています。
ひとつだけ先に。
この記事を最後まで読んでも、あなたの経歴にFASがいくら出すのかは分かりません。年収レンジの中央値は出せますが、どこにあなたがいくかは、求人ごとに違うからです。
それを知る方法は、いま募集しているポジションの提示額を実際に見ることだけです。読み進めながらでかまわないので、頭の片隅に置いてみてください。
FASに特化した転職エージェントの担当者に直接聞くことで具体化していきます。最終的にFASに転職しなくても、自身のキャリアの判断材料として知っておいて損はありません。登録は無料です。
会計士・税理士・経理財務に特化した転職エージェントの「ヒュープロ」なら、FAS・財務系コンサルの求人を扱っているので、いまの年次と経験で出る条件を実際の求人で確かめられます。登録は無料で約1分、そのまま電話面談の日程まで選べます。
- この記事の執筆者の信頼性
- FASが『やめとけ』と言われる6つの理由
- FASの『激務』は、口コミではなく実は募集要項に書いてある
- FASの年収は本当に上がるのか、同じグループの監査法人と比べる
- FAS求人216件の年収レンジを、全部数えてみた
- FASとは何をする仕事か、4つの業務と激務度
- FASに向いている人と、入ってから苦しくなりやすい人
- 監査法人での経験は、FASでどこまで使えるのか
- FASを辞めた人はどこへ行くのか
- FASとM&A仲介は、同じ『M&Aの仕事』でも別物
- FASの仕事を、資料を出す側から見ると何が見えるか
- FASの面接で聞いておきたい7つのこと
- FASについてよくある質問
- この記事のまとめ ~FASはやめとけなのか~
この記事の執筆者の信頼性

僕は令和元年の社会保険労務士試験に合格しました。3回受けて、勉強期間は2年半かかっています。
【主な保有資格】
社会保険労務士(全国社会保険労務士会連合会 登録)
ファイナンシャルプランナー2級(日本FP協会 登録)
本業は事業会社の管理部門です。毎月の給与計算、社会保険の手続き、36協定の締結、人件費の予算と実績の管理をしています。
この記事で扱う数字のうち、労働時間と固定残業代の部分は、本職で僕が毎月そのまま触っている領域です。一方で、M&Aのアドバイザリー業務そのものは外から見た話しかできません。
そこは各社が公表している募集要項と、実在する求人票の数字に置き換えてあります。

出どころの分からない数字は、憶測なので使いません。
ぜひ、よろしくお願いします。
FASが『やめとけ』と言われる6つの理由

検索結果の上位に並んでいる記事を読むと、FASをやめとけと言われる理由はだいたい「激務」「プレッシャー」「専門性が高い」の3つに落ち着きます。
この3つは間違ってはいません。
ただ、この3つはFASでなくても言われます。監査法人にも、税理士法人にも、事業会社の経理にも同じ言葉が言われているからです。

FASに固有の部分を取り出すと、下記の6つになります。
順に見ていきましょう。
FASやめとけ① 最初から、月30〜50時間の残業を給与に織り込んでいる
これがいちばん分かりやすい理由です。
BIG4系FASの新卒募集要項には、給与額のあとに固定残業の時間数が書いてあります。
【FASの固定残業】
・KPMG FASは50時間
・デロイトトーマツは33時間
・PwCアドバイザリーは30時間
です。
固定残業代というのは、実際に残業したかどうかにかかわらず、その時間分をあらかじめ給与に含めて払う仕組みです。
会社が自分で「毎月これくらいは働いてもらう前提で給与体系を決めています」と宣言しているのと同じです。

求人票の残業時間の欄は、だいたい実態より控えめに書かれます。給与の欄に書いてある固定残業の時間数のほうが、よほど正直です。
数字が多くなるので、この理由だけあとでまとめて解説します。
FASやめとけ② 忙しさが季節ではなく、案件で決まる
監査法人の繁忙期は、3月決算の会社を抱えていれば4月から5月に来ます。繁忙期が分かっているので年が明けたあたりから覚悟ができますよね。
しかし、FASは繁忙期が違います。
デューデリジェンスは、買い手と売り手が独占交渉に入ってから始まって、2週間から6週間で終わります。この期間は、曜日の感覚がなくなるそうです。
そして、その期間がいつ始まるかは、こちらの都合では決まりません。相手の会社が決算を締めたタイミング、経営会議の日程、他社との競争。全部自分でコントロールできない事情で動きます。

僕が資料を出す側だったときも、依頼リストが来るのはいつも突然でした。向こうも突然始まっているのだろうと思います。
監査法人のように繁忙期が読めるということは、旅行などの予定が立てられるということです。読めないということは、プライベートの予定を立てられないということです。
ここは、監査法人から移った人がいちばん最初に戸惑うところかもしれません。
FASやめとけ③ 提示される年収の振れ幅がデカい
FASの求人票を見ると、年収は「600万円〜1,200万円」のような大きめのレンジで書かれています。現在、実在する求人216件を数えたところ、中央値は500万円でした。
同じポジションでも、実績と前職の年収次第で500万円くらい上下するという意味です。
1200万円という上限の数字を見て応募して、提示されたのが下限に近い600万円だった、という落差はここから生まれます。

募集要項のレンジは「この中のどれかになります」というのであって、あなたの年収ではありません。ここは勘違いされやすいところです。
この5つは、求人票を開けばその場で確かめられます。
逆に言うと、求人票を一度も開かないまま「FASは年収が高い」という話だけを読んでいると、下限の存在に気づかないまま応募することになります。
FASに特化した転職エージェントの「ヒュープロ」に登録して、ぜひ年収の振れ幅を見てみてください。
会計士・税理士に特化した「ヒュープロ」なら、FAS・財務系コンサルの求人を専用カテゴリで見られます。下限・上限・固定残業の有無まで、求人票のまま確認できます。登録は無料で約1分です。
FASやめとけ④ 案件が途中で無くなると、形に残らない
M&Aでは、交渉が途中で止まることがたびたびあります。売り手と買い手の価格が折り合わない、デューデリジェンスで想定外の事実が発覚する、経営陣が方針を変える。
そして、そうやって止まったとき、それまでに作った分析資料はどこにも出ません。監査は、どれだけ揉めても最後に監査報告書という成果物が出ます。FASはそこが違います。
3か月かけた案件が、最後の2週間で消えることだってあります。

僕が資料を出していた案件も、一度止まりました。せっかく夜中までかかって作った表が誰にも読まれないまま終わったのは、さすがにこたえましたね。
この徒労感に耐えられるかどうかは、入ってみないと分かりません。
FASやめとけ⑤ どの部門に入るかを、自分では選べない
FASと一括りに言っても、業務の中身はかなり分かれています。
【FASの業務内容例】
・買い手と売り手の間に立って交渉をまとめるファイナンシャルアドバイザリー
・財務デューデリジェンス
・企業価値の算定
・事業再生
・不正調査
やることも、忙しさも、FASとして身につく力も別物です。
新卒で入ると、最初の数年はローテーションで回されることが多く、希望が通るとは限りません。中途入社でも、入社時に配属先が決まっていても、案件の状況で動かされることはあります。

「M&Aがやりたくて入ったのに、ずっと調査ばかりしている」という声、結構あります。
FASやめとけ⑥ 監査法人では評価された動き方が、通じない
監査は、決められた手続を、証拠を残しながら、期限までに終わらせる仕事です。丁寧さと網羅性が評価されます。
FASは、限られた時間で、判断に効く論点だけを拾う仕事です。
全部見ようとすると終わりません。「これは価格に影響しないので飛ばす」という判断を、自分でしなければいけません。
この切り替えができないと、時間だけが過ぎていきます。
僕自身、資料を出す側で同じ失敗をしました。最初の案件で、聞かれていない資料まで作って送ったんです。相手は困った顔をしていました。

資料を出す側から見ていても、優秀なチームほど質問が少なかったです。数が少ないぶん、一つひとつが痛いところを突いてきました。
FASの『激務』は、口コミではなく実は募集要項に書いてある

FASの残業の話は、口コミサイトを開くと星の数と体験談が出てきます。でも読んでも、自分の場合どうなのかは分かりませんよね。
なので、目線を変えてみます。それは各社の募集要項です。
BIG4系のFAS4社が、採用サイトに載せている新卒の条件を見てみました。
| 法人 | 初年度の給与 | 固定残業 | 所定労働時間 | 賞与 |
|---|---|---|---|---|
| KPMG FAS | 基本年俸600万円〜 | 50時間相当分を含む | 9:15〜17:15 (実働7時間) | 業績賞与 年1回 |
| デロイトトーマツ | 初年度基本年俸5,500,000円 | 月額33時間の前払い残業含 | 標準労働時間7時間・フレックス(コアタイムなし) | 年1回(7月) |
| PwCアドバイザリー | 学士 6,842,310円 修士・博士 7,070,460円 | 月30時間の時間外勤務手当含 | 1日7時間・フレックス(コアタイムなし) | 業績賞与 年1回 |
| EYストラテジー・アンド・コンサルティング | 募集要項に給与の記載なし | ― | 9:30〜17:30・休憩1時間(実働7時間) | 記載なし |
年収の幅が500万円以上あるFAS求人は121件で、全体の56.8%です。半分以上が、提示額を決めきらないまま募集していることになります。
逆に、幅が300万円以下に収まっている求人も54件(25.4%)あります。対応がはっきりしている会社です。
BIG4系のFAS4社を見てみると、所定労働時間が1日7時間となっています。一般企業は普通8時間なので、1時間短くなっています。
続いて、休日と勤務地も、見てみましょう。
| 法人 | 休日 | 年次有給休暇 | 勤務地 |
|---|---|---|---|
| KPMG FAS | ・土日祝 ・創立記念日 ・年末年始 | 初年度は4月入社8日・10月入社10日。最大20日 | 東京事務所または希望により大阪事務所 |
| デロイト トーマツ | ・土日祝 ・年末年始 ・特別有給休暇(慶弔・看護・介護など) | 記載あり (日数の記載なし) | 東京・名古屋・大阪・広島・福岡ほか。転居を伴う異動あり(海外含む) |
| PwCアドバイザリー | ・土日祝 ・年末年始 ・統合記念日 | 記載なし | 東京(プロジェクトにより地方・海外の場合あり) |
| EYストラテジー・アンド・コンサルティング | ・土日祝 ・年末年始 ・創立記念日 | 初年度15日間 (入社月により按分) | 東京 |
休日の日数そのものは、4社とも大きく変わりません。土日祝と年末年始が中心です。
注目したいのは勤務地です。デロイトトーマツだけが転居を伴う異動と海外を明記していて、PwCアドバイザリーとKPMG FASは基本的に東京、EYSCも東京です。

社労士の僕がいちばん気になったのは、KPMG FASの初年度の有給が8日だったところです。年次有給休暇は入社から6か月経ってはじめて10日が発生するのが法律の原則なので、いきなり8日というのは優遇されています。
そして4社のうち3社が、給与の中に固定残業を含めています。
給与計算をしている人間として言うと、この
「所定労働時間7時間」と「固定残業」の組み合わせ
をどう見るかがこの求人の重要な部分だと思います。所定労働時間が短いぶん、残業のカウントが早く始まりますから。
FASの固定残業50時間が何を意味するか
労働基準法36条では、時間外労働の上限を原則として月45時間・年360時間と定めています。特別条項を結べばこれを超えられますが、そこにも枠があります。
| 区分 | 上限 |
|---|---|
| 原則(36協定) | 月45時間・年360時間 |
| 特別条項あり(年間) | 時間外労働年720時間以内 |
| 特別条項あり(単月) | 時間外労働+休日労働 月100時間未満 |
| 特別条項あり(複数月) | 2〜6か月平均 80時間以内 |
| 月45時間を超えられる回数 | 年6か月まで |
KPMG FASの50時間は、この原則の45時間を超えています。
誤解のないように書くと、50時間分の固定残業代を払うこと自体は違法ではありません。払っておいて実際は30時間しか働かない、ということも全然ありえます。
ただし、実際に月45時間を超える月が年7回以上になると、特別条項を結んでいても法律の枠から出ます。
会社が50時間分を毎月払う設計にしているということは、それに近い水準が常態だという見立てを、会社自身が持っているということです。

うちで36協定を結ぶとき、固定残業の時間数は「これを下回ると払いすぎになる」というラインで決めます。上振れを見込んで高く置くことはまずありません。
毎月勤労統計調査(厚生労働省)によると、一般労働者の所定外労働時間は月13.5時間です。
「KPMG FASの固定残業50時間」は、一般労働者の13.5時間のおよそ3.7倍になります。デロイトトーマツの33時間だと2.4倍、PwCアドバイザリーの30時間だと2.2倍です。

もう一度言うと、これは口コミではありません。会社が採用サイトに載せている数字です。
FASと監査法人の募集要項を並べると、構造の違いが見える
では、同じ4大グループの監査法人側の求人は、こうなっています。
| 監査法人 | 月給(首都圏) | 固定残業 | 所定労働時間 | 賞与 |
|---|---|---|---|---|
| PwC Japan | 420,300円 | 月30時間分含む (超過は別途支給) | 7時間/日 | 年1回 |
| トーマツ | 365,000円 (東京・横浜) | 記載なし | 9:30〜17:30 (休憩1時間) | 年2回 (12月・9月) |
| あずさ | 365,000円 (首都圏手当等を含む) | 固定残業代なし | 9:15〜17:15 | 年2回 |
| EY新日本 | 365,000円 (首都圏) | 記載なし | 9:30〜17:30 (休憩1時間) | 年2回 |
監査法人側は、固定残業を置いていないところが多いです。あずさは「固定残業代なし」と明記しています。
一方でFAS側は3社とも固定残業込み。これは福利厚生の差ではなく、仕事の形の差です。
監査は繁忙期に山が来て、そのあと谷が来ます。年間でならせば平準化できるので、毎月払う固定残業には向きません。
FASは案件単位で山が来て、次の案件がすぐ始まります。谷が読めないので、はじめから込みにしておくほうが設計しやすいので固定残業になっているわけです。

固定残業が付いているかどうかは、その会社が労働時間をどう見ているかの指標になります。
僕が採用の報酬条件を作る側だったときも、社員の固定残業を入れるかどうかは最後まで揉めました。入れれば毎月の支払いが読めますが、実態と合っていないと、あとで必ず精算の話になるので。
ここまでが「FAS激務」の中身です。
抽象的な激務ではなく、
月30時間から50時間を前提に給与が組まれている仕事
というのが実像に近いはずです。

ただ、いま挙げた数字は全部「新卒の初年度」の話です。中途で入るあなたに提示される額は、載っていません。
そこを知る方法は、実際に募集している求人の提示額を見ることだけです。FASに特化した転職エージェントである「ヒュープロ」なら、進むべき道を伴走しながら支援してくれます。登録は無料です。
「ヒュープロ」は会計士・税理士・経理財務に特化した転職エージェントで、FAS・財務系コンサルの求人を専用カテゴリで扱っています。固定残業の時間数や超過分の精算まで、求人票に書かれていない条件を先に確認できます。登録は無料で約1分です。
FASの年収は本当に上がるのか、同じグループの監査法人と比べる

FASの記事で必ず出てくる言葉が「FASになれば年収が上がる」です。

答えから言うと上がります。これは本当です。
4大グループは監査法人とアドバイザリー会社を両方持っているので、同じグループで初年度の金額を比べられます。比べてみました。
| グループ | 監査法人の初年度(月給×12) | FAS側の初年度 | 差額 |
|---|---|---|---|
| PwC | 5,043,600円(420,300円×12) | 6,842,310円 (学士) | +1,798,710円 |
| KPMG | 4,380,000円(365,000円×12) | 6,000,000円〜 | +1,620,000円 |
| デロイト トーマツ | 4,380,000円(365,000円×12) | 5,500,000円 | +1,120,000円 |
| EY | 4,380,000円(365,000円×12) | 公表なし | ― |
FASになると額にして112万円から180万円上がります。ここまでは、どの記事にも書いてある話と同じ結論になります。
ただ、この表には、大事なものが抜けています。

その金額に、何時間分の残業が含まれているかです。給与計算をしていると、額面より先にそこを見る癖がつきます。
FASの年収を時間で割るとどうなるか
固定残業込みの月額を、時間単価に戻してみます。
計算の前提は、月の所定労働時間を7時間×20日=140時間、割増率を1.25として、固定残業の時間数を割り増したうえで割っています。賞与は入れていません。
| 法人 | 月額(固定残業込み) | 固定残業 | 時間単価 |
|---|---|---|---|
| PwCアドバイザリー (FAS) | 570,192円 | 30時間 | 3,212円 |
| あずさ監査法人 | 365,000円 | なし | 2,607円 |
| 監査法人トーマツ | 365,000円 | 記載なし | 2,607円 |
| EY新日本監査法人 | 365,000円 | 記載なし | 2,607円 |
| デロイトトーマツ(FAS) | 458,333円 | 33時間 | 2,529円 |
| KPMG FAS (FAS) | 500,000円 | 50時間 | 2,469円 |
| PwC Japan監査法人 | 420,300円 | 30時間 | 2,368円 |
年収では37.0%高かったKPMG FASが、時間単価にするとあずさ監査法人を下回ります。デロイトトーマツも、監査法人のトーマツより下です。
PwCだけが逆になっているのは、PwCの監査法人にも30時間の固定残業が入っているからです。同じ条件同士なので、ここは素直に35.7%高い。

固定残業がない会社は、残業した瞬間から給与が増えます。固定残業がある会社は、その時間数までは働いても増えません。ここが分かれ目です。
月41.4時間の残業が、あずさとKPMG FASの分かれ目
もう少し踏み込みましょう。
あずさ監査法人は固定残業代なしと明記しているので、残業したぶんは別途支払われる前提です。KPMG FASは50時間まで込みなので、50時間までは月50万円のまま動きません。
同じ時間だけ働いたときの支給額を並べると、こうなります。
残業ゼロならKPMG FASが13万5,000円多い。月41.4時間を超えると、あずさが追い抜きます。
月50時間なら、あずさが527,946円、KPMG FASが500,000円。差は27,946円で、あずさ監査法人のほうが多くなります。
デロイトも同じことが起きます。月33時間でトーマツ472,545円に対して、ファイナンシャルアドバイザリーは458,333円。14,212円の差で監査法人が上です。

これは「FASは年収が上がる」という話と矛盾しません。上がるのは年収で、下がるのは時間単価です。
それでも、方向は変わりません。
FASの給与は、監査法人より高いですが、監査法人より多い残業時間が最初から織り込まれている。
ということです。
では、FASには何のために移るのか
時間単価が下がるなら意味がないのか、というとそうではありません。いま解説してきたのは全部「初年度」の数字です。
FASの年収の上がり方は、ここから先が違います。次に見る求人票のレンジが、その証拠になります。
監査法人で3年働いたあなたに、FASがいくら出すのか。それは募集要項ではなく、いま開いている求人の提示額にしか書いてありません。
FAS求人に特化した転職エージェント「ヒュープロ」なら、FASに転職したあとどのようなキャリアになるのか、伴走しながら理想の転職を叶えられます。
会計士に特化した「ヒュープロ」は、事業会社・会計事務所・監査法人・FASを横断して扱っています。いまの年次と担当した業種を伝えれば、想定年収まで含めた求人を出してもらえます。登録は無料で、転職を決めていない段階でも使えます。
FAS求人216件の年収レンジを、全部数えてみた

募集要項は新卒の話です。中途で入るときにいくら出るのかは、実際の求人票を見るしかありません。
2026年9月時点で、会計士・税理士・経理財務に特化した転職エージェントのヒュープロに掲載されていた「FAS・財務系コンサルティング」の求人を、ひのが全部数えました。

全部で216件ありました。
そのうち年収がレンジで書かれていた213件について、下限と上限を分けて集計したのが下記です。
| 項目 | レンジの下限 | レンジの上限 |
|---|---|---|
| 中央値 | 580万円 | 1,100万円 |
| 平均 | 605万円 | 1,194万円 |
| 最小 | 240万円 | 400万円 |
| 最大 | 1,390万円 | 3,000万円 |
上限の中央値が1,100万円です。上限1,000万円以上の求人が151件で、全体の70.9%。1,500万円以上も59件あって27.7%を占めます。
ここだけ見れば、たしかにFASの年収は一般企業に比べても高いです。

ただ、求人票を読むときに注目するのは上限ではありません。どちらかというと下限のほうです。
FAS求人の下限年収500万円未満が、4件に1件ある
下限の分布を見てみると、状況が変わります。
下限年収が500万円を下回る求人が51件、全体の23.9%ありました。
監査法人の初年度が月給365,000円×12で438万円なので、下限の帯に入ると、監査法人とほとんど変わらない額になります。
もちろん、ここに賞与が乗ります。ただ、上限1,200万円という数字を見て応募した人が、提示されたのが下限の550万円だった、ということは起こりえます。
年収の幅の中央値が500万円ある意味
下限と上限の差を1件ずつ計算すると、中央値で500万円、平均で589万円でした。
求人票の時点で、500万円の年収の幅がある。
この幅は、会社が「実績次第でここまで出す用意がある」と言っているのと同時に、「実績がなければ下から始める」とも言っています。
| レンジの幅 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 200万円未満 | 17件 | 8.0% |
| 200万〜300万円未満 | 23件 | 10.8% |
| 300万〜400万円未満 | 30件 | 14.1% |
| 400万〜500万円未満 | 22件 | 10.3% |
| 500万〜700万円未満 | 67件 | 31.5% |
| 700万〜1,000万円未満 | 22件 | 10.3% |
| 1,000万円以上 | 32件 | 15.0% |

管理部門でオファーを作る側にいたときも、レンジの広い募集ほど提示額が読みにくかったです。幅が広いのは、まだ決めていないという意味でもあります。
この幅のどこに置かれるかは、面接まで進んで経歴を具体的に見てもらわないと分かりません。逆に言えば、面接前でも、エージェントに経歴を渡せば「この求人ならこのあたり」という当たりはつきます。
求人票の上限を見て一喜一憂するより、そちらのほうが早いです。FASに特化した転職エージェント「ヒュープロ」に登録して直接確認してみてください。
「ヒュープロ」は会計士・税理士・経理財務に特化しているので、同じFAS求人でも、あなたの年次と担当業種だとレンジのどのあたりになるかを教えてもらえます。登録は無料で約1分、そのまま電話面談の日程を選べます。相談だけで終わってもかまいません。
FASとは何をする仕事か、4つの業務と激務度

FASは「Financial Advisory Service」の略です。日本語だと財務アドバイザリー。ただ、この訳語では仕事の中身は分かりません。
デロイトトーマツが公表しているサービスラインを見ると、
【デロイトトーマツのサービスライン】
・コーポレートファイナンシャルアドバイザリー
・トランザクションサービス
・バリュエーション&モデリング
・ターンアラウンド&リストラクチャリング
・フォレンジック&クライシスマネジメント
などの言葉が並びます。
よくわからないので、大きく4つに分けてみましょう。
| 業務 | やること | 激務度 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| FA (ファイナンシャルアドバイザリー) | 買い手と売り手の間に立ち、相手探しから条件交渉、契約、クロージングまでを主導する | 案件期間が長く、山と谷の差が大きい。交渉が動く日は深夜まで | 人と交渉するのが苦にならない人 |
| 財務デューデリジェンス | 対象会社の財務内容を短期間で調べ、価格と契約条件に効く論点を洗い出す | 2〜6週間の集中。この期間は曜日の感覚がなくなる | 短時間で優先順位をつけられる人 |
| バリュエーション | 企業や事業の価値を算定する。減損や組織再編の場面でも使う | 納期が固定されていて読みやすいほうだが、決算期に寄る | 数字を突き詰めるのが好きな人 |
| 事業再生 | 資金繰りが苦しい会社に入り、再生計画を作って実行を見届ける | 年単位で伴走する。緊急対応が突然入る | 当事者と長く付き合える人 |
同じ法人に入っても、この4つのどこに配属されるかでプライベートが変わります。

資料を出す側から見ると、財務デューデリジェンスのチームがいちばん切迫していました。期限が最初から決まっていて、そこまでに全部やる仕事ですから。
FASは公認会計士でなければ入れないのか
FASは公認会計士が多いのは事実です。ただ、各社の募集要項を読んでみると、必ずしも会計士以外の入口もあります。
KPMG FASの新卒募集は全学部・全学科が対象で、募集人数は20〜25名。PwCアドバイザリーも学部不問です。
EYストラテジー・アンド・コンサルティングの新卒には「M&Aフィナンシャルアドバイザー」という職種が独立して置かれています。
中途でも、求人216件のなかには未経験歓迎と書かれたものがありました。

会計士の資格がないと入れない、というのは少し古い理解かもしれません。ただ、入ってから数字で苦労しないかは別の話です。
FASに向いている人と、入ってから苦しくなりやすい人

「FASはやめとけ」が正しいかどうかは、人によって答えが変わります。
ここまでに出てきた条件を、人の側に置き換えてみます。
この2つは、能力の差ではありません。
| 監査法人 | FAS | |
|---|---|---|
| 激務度 | 決算期に合わせた繁忙期。 年単位で読める。 | 案件単位。 開始日が読めない。 |
| 成果物 | 監査報告書が必ず出る | 案件が止まると何も出ないことがある |
| 求められる姿勢 | 網羅性と証拠の保全 | 論点の絞り込みと速さ |
| クライアントとの関係 | 独立した立場を保つ | 依頼者の側に立つ |
| チームの形 | 階層があり、担当範囲が明確 | 少人数で、担当範囲の線が薄い |
| 固定残業 | 置いていない法人が目立つ | BIG4系3社はいずれも込み |
| 評価のされ方 | 手続の完了と品質 | 案件への貢献と単価に見合う稼働 |
監査で高く評価される性質が、そのままFASの評価に入るとは限らない、というのが言いたいことです。

監査を受ける側にいると、それがよく分かります。丁寧に全部見てくれる監査人はありがたい。でも、それはFASで求められている動き方とは違います。
FASは『激務が平気かどうか』で決めないほうがいい
やめとけの記事は、だいたい「激務に耐えられるかどうか」で向き不向きを解説しています。
しかし、ここには落とし穴があります。
監査法人の繁忙期を乗り切れる人は、激務そのものには耐えられます。4月と5月に土日も出ている人は、体力の面ではもう証明済みです。
FASで折れる人は、時間の長さではなく、予定が立たないことで折れます。来週の金曜に約束を入れていいのか分からない。その状態が半年続く。

うちの会社で買収の話が動いていたとき、相手方のFASの担当者が3週間で交代しました。理由は聞いていませんが、期間の短さだけは覚えています。
FASに30代で転職するときに効く条件
FASの求人には未経験歓迎と書かれたものがありますが、実務経験がある人のほうが入りやすいのは間違いありません。
そのうえで、30代で転職するときに効くのは、案件の種類より会社の規模です。
監査で上場企業だけを見てきた人と、非上場のオーナー企業を見てきた人では、感じ方や動き方が違います。
M&Aの対象になる会社の多くは、後者(非上場のオーナー企業)だからです。
中小企業庁のM&A支援機関登録制度の実績報告では、成約した譲渡側の案件のうち73.3%が株式譲渡、21.5%が事業譲渡でした。

連結決算などの複雑な論点より、オーナーの個人資産と会社の資産が混ざっているような会社を見た経験のほうが効きます。
自分の経歴がどこで評価されるのかは、求人ごとに違います。
| 求人票の職種名 | 実際にやること | 監査経験を活かせる? |
|---|---|---|
| トランザクションサービス | 財務デューデリジェンスが中心 | 近い。 会計基準の知識がそのまま効く |
| バリュエーション モデリング | 企業価値の算定、事業計画のモデル作成 | やや遠い。 ファイナンスの知識が要る |
| M&Aアドバイザリー FA | 相手探しから条件交渉、クロージングまで | 遠い。交渉力と調整の比重が大きい |
| ターンアラウンド 事業再生 | 再生計画の策定と実行支援 | 中間。 資金繰りと実行力が要る |
| フォレンジック | 不正調査、データ分析 | 近い。 監査の懐疑心がそのまま使える |
同じ「会計士3年」でも、担当した業種と会社の規模で、出てくる求人がまるで変わります。
東証プライム上場で管理部門・士業に特化した「MS-Japan」は、求人数が業界最大級で全国対応です。FASだけに絞らず、事業会社の経営企画や内部監査まで並べて条件を見比べられます。登録は無料です。
監査法人での経験は、FASでどこまで使えるのか

「監査の経験はFASで通用しない」
と書いてある記事があります。これは半分は当たっていて、半分は言いすぎです。
分けて見ると、使えるものと使えないものがはっきりします。
| 監査法人で身につけたもの | FASで通用するか | 理由 |
|---|---|---|
| 財務諸表を読む速さ | そのまま使える | 短期間で対象会社を把握する仕事なので、読む速さが直接効く |
| 会計基準の知識 | そのまま使える | 調整後利益を作るときの前提になる |
| 調書を残す習慣 | 使える | 報告書の裏付けとして必要。ただし監査調書ほどの厚みは求められない |
| 網羅的に手続を潰す進め方 | 使えない | 時間が足りない。論点を選ぶ判断が先に来る |
| 法人内の役割分担の感覚 | 使えない | 案件チームは少人数で、担当範囲の線が薄い |
| クライアントとの距離感 | 部分的に使える | 監査は独立性を保つ立場。FASは依頼者の側に立つので、距離の取り方が逆になる |
クライアントと立場が逆になることに、意外と時間がかかる
監査人は、クライアントから独立していなければいけません。
しかしFASは、依頼者の代理人です。買い手についたら、買い手にとって有利な条件を取りに行きます。この切り替えは、頭で理解するのと、実際に振る舞うのとで差が出ます。

資料を出す側にいると、買い手側のアドバイザーがどれだけ買い手の側に立っているかは、質問の仕方ですぐ分かります。中立ではないんですよ、あの人たちは。
監査で身につけた中立の構えは、FASでは一度外す必要があります。外し方が分からないまま入ると、どっちつかずになります。
公認会計士の資格そのものは、FASの入口では効く
公認会計士の資格の価値は、入るときにいちばん高く、入ってからは下がります。
財務デューデリジェンスの現場では、会計士かどうかより、その論点を価格に転嫁できるかで評価されます。
ただ、入社の入口ではかなり効きます。求人票の応募要件に公認会計士と書いてある募集は多く、書類で落ちにくい。公認会計士の資格を持っていて、まだFASの求人を見たことがないなら、一度中身を見ておく価値はあります。
見るだけなら、いまの職場には何も起きません。またせっかく見るのであれば、FASに特化した転職エージェントの求人を見ることをおすすめします。
会計士に特化した「ヒュープロ」なら、応募要件・担当サービスライン・想定年収まで揃った求人を見られます。オンラインで完結するので在職中でも動きやすく、登録は無料で約1分です。
FASを辞めた人はどこへ行くのか

入社する前に辞めることを確認しておくのは、決して後ろ向きなことではありません。
FASは在籍年数が長い人ばかりの場所ではないので、次をどうするかを考えておいて損はないです。
| 行き先 | よくあるきっかけ | 年収の動き方 |
|---|---|---|
| ①PEファンド・投資会社 | 案件の途中で買う側に回りたくなる | 上がることが多いが、ポストの数が少ない |
| ②事業会社の経営企画・M&A担当 | 予定の立つ生活に戻したい | 横ばいか下がる。時間は戻る |
| ③事業会社のCFO・管理部門長 | 数字を作る側に回りたい | 会社の規模による |
| ④M&A仲介会社 | 報酬の上振れを狙う | 成果次第で大きく振れる |
| ⑤独立・アドバイザリー開業 | 人脈と実績がたまった | 完全に自分次第 |
| ⑥監査法人に戻る | 生活を戻したい | 戻る等級による |
この中でいちばん多いのは、事業会社の経営企画かM&A担当です。FASで身につく力が、そのまま事業会社の買う側で使えるからです。

うちの会社にも、FAS出身の人が経営企画に入ってきたことがあります。資料の作りが明らかに違いました。あと、会議で結論から話してました。
FASから事業会社に移ると、年収はいったん下がることが多い
FASから事業会社に移ると、年収は下がるほうが多いです。事業会社には等級表があって、そこに当てはめられるからです。
外から来た人にだけ特別ということは、まずありません。
そのかわり、時間が戻ります。
ここは会計士が事業会社に移るときの構造と同じなので、詳しくは会計士が事業会社に転職すると年収は下がる?転職後に何が起きるかと後悔しない選び方の記事にまとめてあります。
「MS-Japan」は東証プライム上場で、経理・財務・経営企画・内部監査の求人を全国で扱っています。FASの出口にあたるポジションがいまいくらで募集されているかを、先に見ておけます。登録は無料です。
FASとM&A仲介は、同じ『M&Aの仕事』でも別物

転職先を探していると、FASの求人とM&A仲介の求人が並んで出てきます。どちらもM&Aに関わる仕事ですが、立ち位置が違います。
| BIG4系FAS | 独立系・ブティック | M&A仲介 | |
|---|---|---|---|
| 立場 | 依頼者の片側につく/調査を請け負う | 依頼者の片側につく | 売り手と買い手の間に立つ |
| 報酬 | 時間チャージが中心 | 時間チャージ+成功報酬 | 成功報酬が中心 |
| 1件の規模 | 大型・クロスボーダーが多い | 中堅 | 中小企業の事業承継が多い |
| 個人の裁量 | 小さい(チームで分業) | 大きい | 大きい |
| 年収の振れ方 | 等級で決まる | 会社による | 成約数で大きく振れる |
| 求められる力 | 分析と論点整理 | 分析と交渉 | 相手を見つけてくる力 |
中小企業庁の実績報告によると、登録されたM&A支援機関が扱った譲渡側の案件のうち、仲介が77.6%、FAが22.4%でした。
数のうえでは、日本のM&Aの多くは仲介で動いています。

会計士がFASを探すときに仲介の求人まで一緒に出てくるのは、このためです。仲介の求人数が多いんですよ。
M&Aのプレイヤーは増え続けている
もうひとつ、知っておくと視野が変わる数字があります。中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録されている事業者は、2026年3月時点で3,399者です。
制度が始まった2021年度末は2,823者でした。
576者増えています。しかも、このうち793者は個人事業主です。プレイヤーが増えるということは、1者あたりが取れる案件が薄くなるということでもあります。
同じ実績報告では、成約実績のある登録機関は723者にとどまっていました。登録しても案件が取れていない事業者のほうが多い。

この数字は仲介の世界の話です。BIG4系FASはまた別の土俵にいます。ただ、M&Aの仕事全体がどこに向かっているかは、ここに出ています。
FASを選ぶか仲介を選ぶかは、どちらが上かではなく、報酬の決まり方の好みで決まります。等級で決まるほうが落ち着くならFAS、成約数で跳ねるほうがいいなら仲介です。
両方の求人を並べて見ないと、この好みは自分でも分かりません。
「ヒュープロ」は士業・管理部門に特化しているので、FASと仲介の両方の求人を同じ画面で横断して見られます。報酬の決まり方の違いを、実際の提示額で比べられます。登録は無料で約1分です。
FASの仕事を、資料を出す側から見ると何が見えるか

ここからは、公表資料ではなく、僕が実際に見た話です。会社が買われる側になると、買い手の立てたチームからデューデリジェンスの資料依頼が来ます。

財務は経理が受けます。労務の部分が、僕のところに来ます。
僕がこの仕事をはじめて受けたとき、リストの1項目目から手が止まりました。「直近3年分の36協定」と書いてあって、3年前のものがどこにあるか分からなかったからです。
金曜の夜に届いて、月曜の朝が期限だったことがあります。全部で50項目ありました。

あの週末のことは、たぶんずっと覚えています。会社の履歴書をここまで丸裸にする仕事があるんだ、と思いました。
あとで数えたら、こちらが受けた依頼は4回で、項目数は12から80まで開きがありました。
質問の精度で、FASのチームの力量が分かる
何度か受けているうちに、気づいたことがあります。チームによって、質問の数がまるで違うんです。
あるチームは、全部で80項目を送ってきました。読むと、汎用のチェックリストをそのまま貼った形跡がありました。
別のチームは、30項目でした。
そのかわり、こちらが出した36協定を見たあとに「特別条項の回数が上限に近い部署が2つあります。この部署だけ、直近12か月の実績を月別でください」と返してきました。
痛いところを知っていて、そこだけ掘りに来る。
僕はこのとき、相手のチームに何人いるのか聞いてみました。3人でした。80項目を送ってきたチームは6人いました。人数が多いほうが、結果として質問が増えていたことになります。

こちらとしては30項目のチームのほうが怖いです。ただ、仕事として見ると、明らかにうまい。
FASで評価されるのは、この30項目を選べるほうです。監査で評価されるのは、80項目を全部埋めるほうかもしれません。
この違いが、さきほどの向き不向きの正体と言えそうです。
FASからの深夜のメールは、たぶんこちらのせいでもある
資料の追加依頼が、夜11時に届くことがありました。

当時は、この人たちはいつ寝ているんだろうと思っていました。
いまなら分かります。こちらが夕方に出した資料を読んで、疑問が出て、翌朝の会議までに形にしようとすれば、その時間になるからです。
デューデリジェンスには締切があって、その日に報告書を出さないと取引が止まります。動かせないのは締切のほうで、動かせるのは自分の睡眠時間だけです。
僕も、その週だけは深夜に返信を打ちました。あれを毎月やる仕事なんだと思うと、正直ぞっとします。

FASの激務は、だらだら残っているタイプの長時間労働ではありませんでした。期限が先にあって、そこから逆算した結果として夜が伸びている。
これは、耐えられる人と耐えられない人がはっきり分かれる種類の忙しさです。
報告書が出た日に、担当者が交代した
ひとつだけ、いまでも引っかかっている場面があります。
3週間やりとりした相手の担当者が、報告書が出た翌週には別の人に代わっていました。
引き継ぎのメールが来ただけで、理由の説明はありません。次の案件に移ったのか、法人を出たのかは分かりません。

あの人がいまどうしているかは知りません。ただ、3週間毎日メールしていた相手が次の週にいないという経験は、それまでの取引先ではなかったことでした。
| 僕が受けた依頼 | 項目数 | 回答期限 | 相手のチーム人数 |
|---|---|---|---|
| 1回目 (買収される側) | 50項目 | 金曜の夜に受領、月曜の朝 | 聞いていない |
| 2回目 (同じ案件の追加) | 12項目 | 当日中 | 同上 |
| 3回目 (別案件・汎用リスト型) | 80項目 | 5営業日 | 6人 |
| 4回目 (別案件・論点特定型) | 30項目 | 3営業日 | 3人 |
FASの回転の速さは、外から見てもそれくらい分かります。これを「消耗が激しい」と読むか、「案件ごとに切り替わる仕事だ」と読むかで、印象は変わります。
FASの面接で聞いておきたい7つのこと

入社する前に確かめられることは、思っているより多いです。聞かずに入って後悔している人が挙げるものを、質問の形に変えました。
固定残業代は、設定した時間数を超えた分を別途払わなければいけません。これは法律で決まっています。ただ、超過分の支払いが実際に運用されているかどうかは、会社によって差が出るところです。

給与計算をしている側から言うと、固定残業の超過精算をきちんとしている会社は、労務管理の全体がしっかりしています。
監査法人出身が多いのか、銀行や証券出身が多いのか、事業会社出身がいるのか。これで、入ったあとに自分がどう見られるかが読めます。
ただ、この7つを面接でいきなり全部聞くのは、現実には難しいですよね。業界案件に特化したエージェントが間に入っていれば、面接の前に聞いてもらえます。
残業時間や離職の状況は、候補者本人が直接聞くと角が立ちますが、エージェント経由なら普通の確認事項として扱われます。
「ヒュープロ」は会計士・税理士に特化した転職エージェントなので、残業時間・固定残業の超過精算・チームの構成など、求人票に書かれていないことを応募前に確認できます。登録は無料で約1分です。
FASについてよくある質問
検索でよく一緒に調べられていることに、順番に答えます。
FASの離職率はどれくらいですか?
BIG4系のFASは非上場なので、離職率を公表している法人はありません。
監査法人は公認会計士法にもとづいて業務および財産の状況に関する説明書類を公表していますが、そこにも離職率の項目はありません。
つまり、数字で答えられる人は誰もいません。「離職率◯%」と書いてある記事は、出どころを確かめてください。
FASは未経験でも転職できますか?
できる募集はあります。
実際、求人216件のなかには未経験歓迎と書かれた事業再生コンサルタントの募集がありました。年収レンジは400万円〜800万円です。
ただ、未経験可の募集は年収レンジの下限が低い傾向があります。会計士や実務経験者向けの募集とは、入口の条件が違います。
FASに30代で転職するのは遅いですか?
遅くありません。中途採用の中心は20代後半から30代です。
ただ、30代後半になると、プレイヤーとして入るのか、マネージャー候補として入るのかで求人が分かれます。
前者なら年下の上司がつくことは普通にあります。ここを気にするかどうかは、先に自分で答えを出しておいたほうがいいです。
FASと監査法人、どちらが激務ですか?
繁忙期のピークだけを比べるなら、大差ないという声が多いです。
違うのは年間の形です。監査法人は山と谷がはっきりしていて、谷で休めます。FASは案件が切れ目なく続くので、谷が読めません。
募集要項の固定残業時間で見ると、FAS側が月30〜50時間、監査法人側は固定残業を置いていない法人が目立ちます。
FASの年収はどれくらい上がりますか?
新卒の初年度で比べると、同じグループの監査法人より25.6%から37.0%高くなっています。額では112万円から180万円です。
中途の場合は求人ごとに幅があって、掲載されている求人の年収レンジは下限の中央値が580万円、上限の中央値が1,100万円でした。
ただし、レンジの幅が中央値で500万円あります。上限の数字がそのまま提示されるわけではありません。
公認会計士の資格がないとFASに入れませんか?
入れます。KPMG FASの新卒募集は全学部・全学科が対象ですし、PwCアドバイザリーも学部不問です。
中途でも、銀行・証券・事業会社の経営企画からの転職者がいます。
ただ、書類選考の通りやすさでいえば、会計士の資格はいまも強い武器です。
FASのなかで、どのサービスラインがいちばん忙しいですか?
一概には言えませんが、期限が外から決まるという意味では財務デューデリジェンスです。
調査期間が2週間から6週間と短く、その日に報告書を出さないと取引が止まります。
バリュエーションは納期が読みやすく、事業再生は年単位で伴走するぶん、日々の波は小さめです。
FASへの転職の難易度はどれくらいですか?
会計士で監査実務が3年以上あれば、書類が通らないということはあまりありません。
難しいのは面接のほうです。監査の経験を、価格や契約条件にどう翻訳するかを聞かれます。
「網羅的に見てきた」ではなく「この論点が金額に効くと判断した」という話ができるかどうかで、評価が分かれます。
USCPAはFASで評価されますか?
英語を使う案件があるファームでは評価されます。クロスボーダー案件を扱う部署はとくにそうです。
ただ、USCPAだけで入るのは会計士より難易度が上がります。実務経験とセットで見られます。
なお、PwC Japan有限責任監査法人の監査職の募集要項には、USCPA全科目合格者が応募資格として明記されています。会計士試験を経ないルートは、監査法人側にもあります。
FASを辞めたあと、監査法人に戻れますか?
戻っている人はいます。会計士の資格があれば、実務経験は途切れません。
ただ、戻るときの等級は交渉になります。FASでの年数がそのまま監査法人の年次として扱われるとは限りません。
生活を戻したいという理由で戻るなら、事業会社という選択肢も一緒に見ておくほうが比べられます。
BIG4系FASと独立系FASのどちらがいいですか?
案件の大きさを取るならBIG4系、裁量を取るなら独立系です。
BIG4系は大型案件やクロスボーダーに入れますが、分業なので担当範囲は狭くなります。独立系は少人数のぶん、最初から全工程に関わりやすい。
どちらが合うかは、いまの自分が何に物足りなさを感じているかで決まります。
この記事のまとめ ~FASはやめとけなのか~
長い記事になったので、大事なところをまとめます。
【この記事のまとめ】
・FASの「激務」は口コミではなく募集要項に出ている。
・固定残業はKPMG FASが50時間、デロイトトーマツが33時間、PwCアドバイザリーが30時間
・一般企業の所定外労働は月13.5時間。KPMG FASは50時間
・初年度の年収は、同じグループの監査法人より高い。ただし時間単価にすると、変化する
・FAS求人の年収レンジは、下限の中央値580万円・上限の中央値1,100万円。幅の中央値は500万円
・下限500万円未満の求人が23.9%ある。上限だけ見て応募すると落差が出る
・FASで折れるのは長時間労働そのものより、予定が立たないこと
「FASやめとけ」が正しいかどうかは、あなたが何を嫌っているかで変わります。長く働くこと自体が嫌なら、FASは合いません。予定が読めないことが嫌なら、これも合いません。
逆に、監査で全部を潰す進め方に物足りなさを感じているなら、合う可能性があります。
いまの自分の経歴に、FASがいくら出すのかを確かめてください。僕がこの記事で書いた580万円も1,100万円も、216件の中央値であって、あなたの数字ではありません。
動いた人も残った人も、確かめた人は後悔していませんでした。後悔していたのは、確かめないまま何年も迷い続けた人のほうです。
会計士・税理士・経理財務に特化した「ヒュープロ」なら、FAS・財務系コンサルの求人を専用カテゴリで扱っているので、あなたの年次と経験で出る提示額を実際の求人で確かめられます。登録は無料で約1分、そのまま電話面談の日程まで選べます。
FASだけでなく、事業会社や監査法人も含めて比べたいなら、管理部門と士業に強いエージェントを併せて使うと視野が広がります。
東証プライム上場の「MS-Japan」は管理部門・士業に特化していて、求人数は業界最大級・全国対応です。FASと事業会社と監査法人を並べて条件を比べられます。登録は無料です。
あわせて読みたいFAS・監査法人の記事
・公認会計士が監査法人から転職するタイミングはいつ?ベストな時期とコンサルという選択肢!
・会計士が事業会社に転職すると年収は下がる?転職後に何が起きるかと後悔しない選び方
・監査法人は激務?繁忙期の残業、BIG4と中小の違い、辞めどきを現役管理部門が解説
・四大監査法人はどこがいい?BIG4の規模・年収・社風・得意業種を現役管理部門が比較
・監査法人の年収は高い?役職別・BIG4別・年代別の実態を現役管理部門が解説
・公認会計士を辞めたい…辞めるべき人・残るべき人の違いと後悔しない辞め方


コメント