相続放棄した際の相続税:計算方法を分かりやすく解説

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相続とは遺された人が亡くなった人の財産を受け継ぐことですが、相続人は“相続放棄”という相続そのものを行わない選択も可能です。しかし相続人が全員相続するケースとは違って計算方法も異なり、他の相続人が支払うべき税額に影響が出るので注意しなければなりません。

この記事では、相続人の中で相続放棄した人が居る場合の計算方法を分かりやすく解説します。相続放棄しない場合の税額とも比較しているので、ぜひ参考にしてください。

この記事の監修税理士
所属 服部大税理士事務所
氏名 服部大
登録番号 127888
URL https://zeirishihattori.com/

相続放棄(した人)とは

何らかの理由があり相続を放棄したい場合、相続人の中だけで宣言すれば“相続を放棄した”と判断されるわけではありません。国税庁のページにもしっかりと明記されています。

「相続を放棄した人」とは、(自己のために)相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に相続の放棄の申述をした人のことをいいます。相続の放棄の申述をしないで、事実上、相続により財産を取得しなかった人はこれに該当しません。

引用元:国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分

このように3か月以内に家庭裁判所に出向いて、相続を放棄する旨の申述を行わなければ“相続放棄した”とはみなされないので注意してください。

もし2021年9月1日に亡くなり、9月3日に亡くなったことを知って且つ相続が開始したとします。相続を放棄するなら、3か月後の12月3日までに申述する必要があるのです。亡くなってから3ヶ月以内、と覚えておくと分かりやすいです。

相続開始前に放棄はできない!約束していても無効

  • 相続が開始されてからでないと放棄はできない
  • 家庭裁判所で申請しないと相続の放棄はできない

家庭裁判所に出向いて申請し、はじめて相続放棄したとみなされるわけなので、相続が開始される前に放棄することはできません。

家族や親族など相続する人の前で、「私は相続放棄するので財産は要らない」と約束・宣言していたとしても(相続が開始されていなかったら)すべて無効です。念書などを用意していても、生前であれば一切効力は発揮しないので注意が必要です。

相続を放棄するならば「相続が開始されてから」と、覚えておきましょう。

相続放棄する際に必要なもの

相続を放棄する時には、以下の書類3種類と収入印紙・切手が必要です。

相続放棄に必要なもの
  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の住民票除票もしくは戸籍附票
  • 相続放棄する人の戸籍謄本(被相続人との関係が分かるもの)
  • 800円分の収入印紙
  • 郵便切手(必要な枚数を管轄の裁判所で確認してください)

◆相続放棄申述書は、相続の放棄の申述書(20歳以上)こちらのサイトからダウンロード・印刷が可能です。記入例も掲載されているので、見ながら記入すると確実です。

◆収入印紙800円分というのは、あくまでも自分で相続放棄の手続きを行なった場合です。税理士や弁護士・司法書士などの専門家に依頼する場合は、数万円~数十万円程度の報酬が発生します。

相続放棄すれば相続税は発生しない?

相続税はあくまでも財産を相続した人が納めるべき税金で、相続しない(放棄する)のであれば課税対象である財産そのものが無いため相続税は発生しません。

ただし、以下のような場合には相続税が発生するケースがあります。

  • 死亡保険金の受取人
  • 死亡退職金の受取人
  • 死亡前の3年以内に生前贈与を受けている場合
  • 相続時精算課税制度によって贈与を受けている場合

相続放棄するのも選択肢のひとつです。後半で相続放棄する際のメリットとデメリットを解説していますので、参考にしてください。

相続する人(相続放棄する人以外)への影響

では、きちんと家庭裁判所に申請して相続放棄が認められたとします。相続する人すなわち相続放棄を行わない人へは、どのような影響があるのでしょうか。

実は相続人の中で相続放棄をした人が居た場合は、(全員相続する場合と比較して)支払うべき税額に差が出てしまうのです。相続放棄した人が居ても相続税の総額(合計額)は変わりませんが、相続人一人一人が支払う税額が増えるのです。

相続税の総額が変わらない理由は、相続放棄した人も“放棄がなかったものとした場合の数”に含まれるからです。国税庁No.4152相続税の計算の、2.相続税の総額の計算:注①にて明記されています。

注①

法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。

引用元:国税庁 No.4152 相続税の計算

また相続人一人一人の税額が増えてしまうのは、“放棄した人は除いて”計算されるからです。つまり相続人の数そのものが減るので、配分した時に一人あたりの金額が高くなってしまうということです。

相続人への影響
  • 相続放棄した人がいても相続税の総額は変わらない
  • 相続人は相続放棄した人の分の相続税を支払わなければいけない

相続放棄する人の有無で相続税はいくら変わる?

では、相続放棄がある・無いで一人一人の相続税はいくら変わるのでしょうか。具体例を使いながら、それぞれ支払うべき税額と差額をシミュレーションしてみます。

  • 父、母(配偶者)、息子2人(AとB)の4人家族で父が死亡
  • 正味の遺産総額(すべての財産の総額):1億円
  • 法定相続人:母(配偶者)と息子2人の合計3人

相続放棄する人が『いない』場合の計算方法

参考記事:相続税の計算方法

①基礎控除額を計算

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

法定相続人が母と子供2人で3人となります。

3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円

4,800万円が基礎控除額となります。

②課税遺産総額を計算

課税遺産総額=遺産総額ー基礎控除額

遺産総額が1億円で、基礎控除額は①で計算した4,800万円です。

1億円-4,800万円=5,200万円

5,200万円が課税遺産総額となります。

③課税遺産総額を法定相続分で分配

相続額=課税遺産総額÷法定相続分

  • 母(配偶者):法定相続分1/2、5,200万円÷2=2,600万円
  • 子A:法定相続分1/4、5,200万円÷4=1,300万円
  • 子B:法定相続分1/4、5,200万円÷4=1,300万円
④相続税の合計を計算

相続税の速算表を使ってそれぞれの税額と相続税の総額を計算

相続税の速算表:国税庁 No.4155 相続税の税率

  • 母(配偶者):2,600万円✕15%ー控除額50万円=340万円
  • 子A:1,300万円✕15%ー控除額50万円=145万円
  • 子B:1,300万円✕15%ー控除額50万円=145万円

340万円+145万円+145万円=630万円

相続する人が支払わなければならない相続税の総額は630万円

⑤各相続人ごとの税額を計算

各相続人の相続税=相続税の総額(④)✕各人の課税価格(③)÷課税価格の合計額(②)

  • 母(配偶者):630万円✕2,600万円÷5,200万円=315万円
  • 子A:630万円✕1,300万円÷5,200万円=157.5万円
  • 子B:630万円✕1,300万円÷5,200万円=157.5万円

母と子2人の合計3人ともが全員相続する場合は、⑤の金額(母:315万円・子2人それぞれ157.5万円)が相続税として納めるべき金額となります。

  • 母が納める相続税は315万円
  • 子Aが納める相続税は157.5万円
  • 子Bが納める相続税は157.5万円

相続放棄する人が『いる』場合の計算方法

では、2人の子のうちAが相続放棄したとしましょう。相続放棄したとしても、相続税の計算は①~④まで共通・同じです。つまり相続税の総額は630万円で変わりません。前章で理由を述べた通り、相続放棄する人がいても無かったものとして計算されるためです。

しかし⑤の段階:最終的に支払うべき相続税は、相続を放棄した人は計算に含めません。つまり子Aが支払うべき157.5万円の相続税は、相続する母(配偶者)と子Bの2人で支払います。

子Aが相続放棄したので、相続する母(配偶者)と子Bの2人で支払わなければならない。

相続放棄した人の税金は、相続する人の数・割合によって按分する仕組みです。

今回の場合は2人で支払うので157.5万円を2人で割って計算します。

157.5万円÷2=787,500円(78.75万円)

78.75万円を先ほど計算した⑤の税額(母・子Bそれぞれの金額)に足します。

  • 母が納める相続税:315万円+78.75万円=393.75万円
  • 子Bが納める相続税:157.5万円+78.75万円=236.25万円

母であれば315万円でしたので足して393.75万円、子Bも同様に157.5万円に足して236.25万円が支払う相続税額です。

放棄した人の税額を法定相続人の数で割った金額が、そのまま納税額として増えます。相続人の数自体が減るので金額が増えると言ったことが、納得して頂けたかと思います。

もし母(配偶者)が相続放棄した場合の税額は?

これまでは子Aが相続放棄した例でシミュレーションしましたが、もし母である配偶者が相続放棄すれば子A・Bの税額はいくらになるのでしょうか。

このケースでも同じように計算すればOKで、母(配偶者)の税額315万円を子2人で分けて支払うという認識です。

母の税額315万円÷2=157.5万円

子A・子B:157.5万円+157.5万円=315万円

315万円ずつ子Aも子Bも相続税を支払わなければならない。

母が相続放棄するだけで、2人の子は全員が相続する時に比べて納税額が倍になってしまいます。

相続放棄あり:計算時に押さえるべき3つのポイント

相続放棄がある場合、計算する時に押さえておくべきポイントが3つあるので紹介します。以下で紹介する3つのポイントを知っておくことで、より正確に計算できます。

ポイント①相続放棄した人も法定相続人に含むので基礎控除額は変わらない

相続放棄した人がいても法定相続人の数には含めるので、基礎控除額そのものは変わりません。

4人の法定相続人が居たとして、そのうち3人が相続放棄したとしましょう。基礎控除額は3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円です。相続放棄する人が何人いても、これまでに説明してきた通り『相続放棄は無かった』とされるからです。

相続税の総額は一切変わらず、最終的に支払う相続した人の納税額が増えるだけなので理にかなっていると言えます。

ポイント②死亡保険金・死亡退職金は非課税が適用されない

実は相続を放棄しても、死亡保険金や死亡退職金は受け取ることができます。契約者が夫・保険金の受取人を妻としていたとします。夫が死亡した場合は妻が保険金を受け取り、この受け取った保険金は妻の固有財産となります。

本来、死亡保険金は500万円×法定相続人の数で計算された金額が非課税の限度額として認められています。法定相続人の数が2人なら1,000万円までの保険金なら非課税なのです。しかしこれは相続人であることが条件で、妻が相続を放棄した場合はこの非課税枠は適用できません。

相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。

引用元:国税庁 No.4114 相続税の対象になる死亡保険金

ポイント③債務控除も適用されない

非課税にならない他に、債務控除も適用されません。債務控除とは遺産総額からマイナスの財産を差し引くことを言いますが、相続放棄する人は相続する権利も失われて相続人ではなくなります。

すなわち借金などの債務マイナスの財産はもちろんのことプラスの財産も引き継がないので、債務控除は当然適用外となります。適用させるための財産が無いからです。

ちなみに故人の葬式費用に関しては、相続放棄した人が負担していればその分は控除できます。生命保険金等の受取人ならば、その保険金から葬式費用分を控除して(差し引いて)相続税を計算することが可能です。

参考:国税庁:第13条《債務控除》関係

相続放棄する2つのメリット

自らが相続放棄する人・相続放棄せざるを得ない人…様々な理由で相続放棄する人が居ると思いますが、相続放棄した場合どんなメリットがあるのか2つ紹介します。

メリット①相続争いを回避できる

相続を放棄すれば、その時点で相続人ではなくなります。相続する人同士で協議する遺産分割協議にも参加しなくて良いですし手続きも不要、煩わしい争いを回避することができます。

故人の遺産が多いほど、誰が何をいくら相続するかで揉めることが多いのが現状です。この時ばかりは普段滅多に会わない遠い親戚までが登場したりなど、遺産分割協議ほど大変なものは無いと言っていいほどです。

相続人が少ない・遺産そのものが少なければまだ考える余地はありますが、面倒くさいことが多いならば相続放棄してしまうのも賢明な判断です。

メリット②故人に債務があっても支払わなくて良い

生前の借金や未払いのローンなどを残したまま亡くなる、ということも少なくありません。前章の債務控除に少し被りますが、相続放棄すれば故人の借金を弁済する必要はありません。

故人に2,000万の借金があり、法定相続人の数が2人だとします。相続放棄しない場合は、1人ずつ1,000万円の借金を引き継ぐことになり‥貸主に返していかなければならないのです。

しかし相続放棄すれば、一切引き継がずに1円も支払わなくて済みます。故人に借金がある等は生前でも分かるので、あまりに多そうであれば相続放棄するのも手です。

相続放棄して生じる2つのデメリット

最後に、相続放棄して生じるデメリットを2つ見ていきましょう。

デメリット①受け取った保険金に課税される

「死亡保険金は非課税が適用されない」の章でもお伝えした通り、受け取った保険金に対して課税されてしまいます。受け取れる死亡保険金が3,000万円あったとします。相続放棄しても3,000万円を全額受け取ることができますが、この3,000万円に対して課税されます。

もし相続するのであれば、500万円×法定相続人の数で出た金額までが非課税です。法定相続人が1人なら500万円までが非課税、残りの2,500万円に対しての課税なので500万円分の差が出ます。

法定相続人が多いほどに差は広がり、結果的に支払う税額も増えてしまうというわけです。

デメリット②一切の遺産を相続できない

相続放棄するわけですから、すべての遺産は相続できません。これは現預金だけでなく、不動産・土地など遺産とされるものはすべてです。

仮に相続放棄した人が、故人と一緒に昔から住んでいたとしましょう。しかし相続放棄した場合は、いくらずっと住んでいた家であっても出ていかなければなりません。相続放棄=家の相続も放棄、なので住むことができなくなるからです。

また意外なところから出た財産等も、相続放棄していれば当然相続できません。相続放棄すればすべての遺産は相続できない、と頭に入れておいてください。家や土地など一部だけ引き継ぐ‥などということは不可能です。

まとめ:相続放棄は税理士に相談するのもおすすめ!

相続放棄しても、相続税の計算はそこまで複雑ではありません。色々と記載しましたが、“相続する人の税額が増える”点を押さえておけば充分です。

しかし相続放棄は安易に決めず、メリット・デメリットを理解した上で行なう必要があります。遺産が多いなど自分で決めきれない場合は、相続税を得意とする税理士に相談してみるのもおすすめです。

様々な角度からアドバイスしてくれますし、初回無料相談を利用するだけでも見えてくるものがあるはずです。

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